甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
(9) 詐欺の片棒をかつぐ
酒場でゴードンと酒を飲み、夜遅く帰宅したユアンはダイニングの
窓から灯りが漏れているのを見て、訝しんだ。
セオがいるのか?
いや、彼は出かけているはずだ。
玄関をぬけ、ダイニングに足をふみいれると、そこにはセオではなく
テーブルに突っ伏して寝入っているフィーネの姿があった。
ユアンの帰りを待っていたのだろうか、重ねた手の上に左頬をのせ、
すうすうと寝息をたてているフィーネに近づき、テーブルに手をついて、
ユアンはフィーネを見下ろす。
無防備に曝け出された首筋を見て、ユアンはフィーネがユアンの首筋の
情事の名残を見て、” 虫さされか ”と問うたことを思い出した。
最初は、なんのことを言っているのか、わからなかった。
でも伸ばされた指先に、フィーネの言っているものがわかったとき
ユアンは狼狽え、フィーネの指がそこに触れることで、薄汚れた自分が
暴かれるような気がして、思わずその手を止めていた。
無垢で、だから無知な、フィーネ。
もし今ここで、目の前の白い首筋に、赤い跡を残したら、それも
フィーネは虫さされだと言うのだろうか......。
いたずら心と、仄暗い欲求が湧き上がり、無性に自分の印を
刻み付けたくなる。
ユアンはゆっくりと身をかがめ、覆いかぶさるようにフィーネの
首筋に顔をよせ、邪魔なほつれ毛をそっと指で払ったが、そのかすかな
動きにフィーネがゆっくりと目を開く。
ユアンは慌てて身をおこした。
だが、フィーネが目を開いたのは一瞬で、瞼はまたすぐに閉じられた。
何事もなっかたように、またすうすうと寝息を立てるフィーネを見て
ユアンは自分の髪に指を埋めると、自嘲の笑みをもらした。
「悪いことは、出来ない......か」