甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
ろうそくの明かりがきらめく広間の食卓についているのは、
全部で8人。
鴨肉のソテーを切りわけながら、フィーネは密かに周りを見回した。
ミルズ男爵夫妻になっているフィーネとユアンの前に、この晩餐会の
ホスト役であるゴードン氏が上機嫌な顔で座り、その左横に、紫色のドレスを
着た化粧の濃い女性が座っている。
ゴードンは彼女を友人だと紹介したが、結婚していない彼がホステス役の妻
が座る場所にこの女性を座らせているということは、友人といっても
かなり親しい間柄なのだろう。
そして彼女の隣には、ゴードン氏の友人だという男性。
ゴードン氏の右隣には従兄弟だというやはり中年の男性。
二人とも、ゴードン氏と似たり寄ったりの年齢だが、フィーネの隣に座る
男性は若くて、二十代か三十代前半のようだ。
みな、商売上の繋がりのある人ばかりらしい。
そして、フィーネの隣、ミルズ男爵になっているユアンの左には、
ゴードン商会の専任会計士のバーロウ氏が、この場の会話にはいっさい
加わらず、辛気臭い顔でもくもくと食べ物を口にはこんでいる。
会計士のバーロウをのぞけば、皆それぞれが料理と会話を楽しみ、場は
晩餐会にふさわしい雰囲気につつまれているように見えた。
もっともフィーネはミルズ男爵になっているユアンが ”妻が人見知りなこと”
をさりげなくみんなにアピールし、予防線を張ってくれたおかげで
” はい " とか ” そうですね ” などという簡単な返事をしているだけだ。
声高に誰よりもよく喋っているのはゴードン氏だが、彼の無謀な発言や
笑えないジョークを、うまくオブラートに包み、ゴードン氏の顔をたてつつ
場の雰囲気がこわれないようにしているのは、ミルズ男爵だ。