甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

   「金が人を選ぶんだと俺は思うね、金に選ばれる人間になら
    なくちゃいかん」



 ゴードンの言葉に会計士のバーロウが、密かにふんと鼻を鳴らす。



   「金は自分たちを生み増やしてくれる人間が好きだ。昔と変わらず
    一定の収益を安穏と貪るだけのやり方は、もう駄目だね」



 今度は友人だという年配の貴族と、ゴードン氏の従兄弟がかすかに顔を
 しかめる。

 ゲストは皆、この会を楽しんでいるようにみえるが、彼らがゴードンに
 対して、面白くない感情ももっているのだということが感じとれた。

 またゴードン氏が、一言偏見に満ちた自説を述べ、さすがにしらけた
 空気がその場に広がりかけたとき、



   「どの言葉も一代で財をなした氏ならではのものですね」



 そう言ってユアンがワイングラスを手に立ちあがった。



   「しかしそれもすべて、ここにおられる皆さんとの友好な関係が
    あるからこそ。
    だから私も、一日も早くこの仲間に加えていただきたいと
    思っているのですよ」



 端正な顔に、柔和な笑みをうかべ、男爵は席に着く人々を見まわす。



   「ゴードン商会のますますの発展と、揺るぎない絆のために、乾杯」



 そう言って、グラスを高くかかげ、ミルズ男爵はグラスの中身を飲み干した。


 席についている人たちも、その男爵の言葉と行動に頬を緩め、グラスを掲げる。

 巧みな話術に加え、目を引く容姿、その場を華やかにする洗練された
 優雅な物腰。

 今、ここにいる人たちが皆、すでに若きミルズ男爵に魅了されている
 ことは間違いない。

 彼が自分たちの仲間に加わることを、皆が認め、望んでいる。

 ユアンの計画は、着実に進んでいる、ユアンの書いた筋書き通りに......。
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