甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
案の定、ミルズ夫人と呼びかけられて、フィーネは身を硬くした。
「はい......?」
呼びかけたのは、フィーネの右隣に座っている若い貴族の男性だ。
他の人は皆、席を立ちバーカウンターのある隣の部屋に移っっていて
ダイニングテーブルについているのは、フィーネとその男性だけに
なっていた。
なかなかにハンサムなその男性は、にっこりとフィーネに笑いかける。
「バウラウ島は、やはりかなり蒸し暑い気候なのでしょう?」
「え?」
「南の島の中では、比較的暮らしやすいと聞いていますが、
それでも、大陸の気候とはちがうだろうし」
「あ、あの」
「はい?」
「私、バウラウ島のことはわからないんです」
そう答えたフィーネに、ジェイミー・エルストン卿と名乗った男性は
かすかに首をかしげた。
「バウラウ島には行ったことがありません」
もし、なにか聞かれれば、バウラウ島には行ったことはないと答えればよい
とユアンにいわれていたフィーネはどきどきしながらも、そう答える。
「そうでしたか、ミルズ男爵は最近までバウラウ島にいらしたと
聞いたので、そちらで知り合われて結婚されたのかと思いました」
「結婚は親が決めたことで......」
このセリフも、あらかじめユアンと決めてあったものだ。