甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
眉を寄せ、訝しげな表情になったエルストン卿は、問うような、でもなんて
言っていいかわからないというふうで、口を噤む。
会話が途切れ、フィーネはほっとした。
でも、” ひきとられた" などという、あまりにも突拍子もない
フィーネの言葉に、相手が虚をつかれて黙っただけで、この先、この話が
どのように転がっていくかは予想もつかない。
だからあとフィーネにできることといえば ”逃げ出すこと” だけだった。
「あの、少し気分が......」
そう言って立ち上がると、エルストン卿も慌てたように立ち上がる。
心臓が早鐘のように鳴り、じんわりと冷たい汗がにじんだが、フィーネは
なにか言いたげなエルストン卿に口を挟む隙を与えず、逃げるように
ベランダへとでた。
もう秋も深まった夜のベランダには、半分しかない月の冴えた光が
おちていて、まるで霜がふったように見えた。
さすがに外の空気は冷えていて、フィーネは暖かい室内から出てきたことを
後悔したが、あのまま、あそこにはいられなかったのだからしょうがない。
嘘がうまくいったのかは疑問だが、人見知りの貴族の女性が、引き取られた
などというあまりかんばしくない素性を知られたくなくて逃げ出したのだと
思ってくれればいいとフィーネは思った。
ほっと息を吐きつつ、フィーネが寒さにぶるっと身体を震わせたとき
「風邪をひきますよ」
そう声がした。
慌てて振り返れば、追ってこないと思っていたエルストン卿が、ショールを
手に立っていて、にっこりとフィーネにむかって笑いかける。
「あ、あの......」