甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
力なく俯けば、エルストン卿はミルズ男爵夫人が、自分の言うことに
納得したのだと思ったのだろう。
彼は、すっと手を伸ばし、フィーネの頬を撫でる。
そしてその指がフィーネの顎を捉え、エルストン卿がそっと顔を寄せたとき
「失礼ですが、ミルズ男爵夫人に用があるという方がお見えに
なっています」
という声が割って入った。
いつの間にやってきたのか、眼鏡をかけた背の高いこの家の家僕らしい男が
かしこまって立っている。
「至急お会いしたいということで、別室にてお待ちです。
ご案内しますので、いらしていただけますか」
そう言うとその使用人は、フィーネを促すように斜めに身体をずらした。
「あ、はい......」
言われるままにエルストン卿の腕から抜け出す。
フィーネは振りかえらなかった。
エルストン卿はもう追ってはこなかった。