甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
フィーネを呼びに来た使用人の高い背中を見て歩き、” ここです ”と言われ
開かれたドアから部屋の中に入ったフィーネは唖然とした。
部屋の中に誰もいなかったからだ。
バタンとドアが閉まる音がして振り返れば、フィーネをここに連れてきた
のっぽの使用人がドアの前に立ちふさがり、フィーネを見下ろしている。
その時になってフィーネは、” ミルズ男爵夫人に用がある人が来ている”
などと呼び出されることのおかしさに気がついた。
ミルズ男爵夫人は架空の人物。
そして、フィーネがミルズ男爵夫人になっているのを知っているのは、
フィーネ以外に三人しかいない。
ユアンとセオとバーバラ。
ユアンはこの屋敷の中だし、セオとバーバラがフィーネに連絡をとろうと
するだろうか。
連絡を取るとすれば、ユアンにだろう。
迂闊だった。
あの場を離れることばかりに気がいっていて、疑いもせずこの男について
きてしまった。
ごくりと唾を飲みこみ、目の前の男を見上げる。
やっぱり、男爵夫人としてのフィーネに疑いをもったエルストン卿が、
ゴードン氏に告げ、この使用人に命じてフィーネを別室に閉じ込めて
おくことにしたのだろうか。
そう思うと、もうすでに縄でぐるぐる巻きにされような気分になる。
胸が苦しくて、うまく息が吸えない。
息を詰まらせながら、
「わ、私は......!」
とフィーネが引きつった声をあげると、なぜか目の前の男が、大きな
ため息をおとした。