甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
ぼんやりとハタキを動かしていた手が止まる。
そして、ぐるんと首を動かしてフィーネはユアンを見た。
ユアンは相変わらず難しい顔をして座っていたが、考えがまとまらない
のか、つっと長くて形の良い指を髪に埋め、くしゃくしゃと絹のような
金の髪をかきまわした。
その無造作な姿を目にした途端、フィーネの胸がまるで、今、鼓動を始めま
したというように、大きくどきんと鳴り、フィーネはさっと目を逸らした。
今まで以上に忙しくハタキを振るう。
あ、ありえないわ!と、心の中で叫ぶ。
彼は犯罪者なのよ。
その上、人使いは荒いし、横暴だし、勝手に物事をすすめていくし......。
確かにすごくハンサムで、どきっとさせられることはあるけれど、
それは、そう、空腹になればお腹がぐぅーと鳴るのと、同じことよ!
だから、絶対に私がユアンのことを......す、す、す......。
「おい」
ふいにユアンの声がして、フィーネはぴくりと肩をふるわせた。
「なに......?」
「そこで、ずっと何してる」
「埃をはらってるんだけど」
「ふうん、そんなハタキで?」
ハタキは、 ティングラスという葉を干したものを束ねたものだが、
フィーネが同じところを、バンバンとはたき続けていたせいで、くったりと
一方方向に曲がっていた。