甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
「どうしたんですか、フィーネさん」
「べつに、なんでもないの」
心配そうにそう聞くマリーに、返事を返しながらもフィーネは力なく
カウンターに寄りかかった。
あれからなんとか、ユアンにコーヒーを出し終え、フィーネは
コーヒー豆が残り少ないというのを口実に、娼館の厨房へと
やってきていた。
なんとなく、ユアンと二人きりでいられなくて。
一時期は娼館へ出入りするのを禁止されていたフィーネだが、
バーバラが、今フィーネがユアンと詐欺を働いていることが
娼館を助けることになる、と信じ込んでいるので
(決して快く迎え入れられているわけではないが)
不自由なく、出入りできるようになっている。
コーヒー豆のつまった瓶を傍に、ぼんやりとカウンターに寄りかかっている
フィーネを見ていたマリーが
「やっぱり、フィーネさん、変で......」
と言いかけた言葉は、ばたばたと足音を響かせて走ってきた店の女の子が
カウンターに突っ伏して、わっと泣き始めたことで止められた。
追ってきたのだろう、すぐに黒い巻き毛の娼婦もあらわれて、
泣いている娼婦の隣に座り込む。
「だから言ったでしょ、あの男はやめときなって」
先輩娼婦のその言葉に、さらに泣きじゃくる若い娼婦と
なだめる黒い巻き毛の娼婦を、唖然とした顔で見ていたフィーネにマリーが
こそっと事情を説明してくれた。