甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

   「どうしたんですか、フィーネさん」

   「べつに、なんでもないの」



 心配そうにそう聞くマリーに、返事を返しながらもフィーネは力なく
 カウンターに寄りかかった。

 あれからなんとか、ユアンにコーヒーを出し終え、フィーネは
 コーヒー豆が残り少ないというのを口実に、娼館の厨房へと
 やってきていた。

 なんとなく、ユアンと二人きりでいられなくて。

 一時期は娼館へ出入りするのを禁止されていたフィーネだが、
 バーバラが、今フィーネがユアンと詐欺を働いていることが
 娼館を助けることになる、と信じ込んでいるので
 (決して快く迎え入れられているわけではないが)
 不自由なく、出入りできるようになっている。



 コーヒー豆のつまった瓶を傍に、ぼんやりとカウンターに寄りかかっている
 フィーネを見ていたマリーが



   「やっぱり、フィーネさん、変で......」


 と言いかけた言葉は、ばたばたと足音を響かせて走ってきた店の女の子が
 カウンターに突っ伏して、わっと泣き始めたことで止められた。

 追ってきたのだろう、すぐに黒い巻き毛の娼婦もあらわれて、
 泣いている娼婦の隣に座り込む。



   「だから言ったでしょ、あの男はやめときなって」




 先輩娼婦のその言葉に、さらに泣きじゃくる若い娼婦と
 なだめる黒い巻き毛の娼婦を、唖然とした顔で見ていたフィーネにマリーが
 こそっと事情を説明してくれた。



 
 
< 124 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop