甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 分厚い絨毯がひかれた部屋は、応接室。

 美しい刺繍の施されたソファセットが置かれ、窓際の壁の飾り台には
 遅咲きの秋バラが、豪華に生けられている。

 ジャブロウのホテルの、応接室やクローゼットまで備えた特別室のソファに
 優雅に足をくんで座ったミルズ男爵は、紅茶のカップを持ち上げふっと
 笑った。



   「心配するようなことは、何もない......って、フィーネ、聞いてる?」

   「聞いてるわよ」



 先日、自宅へ招かれたお返しにと、今日はゴードン氏がこちらに出向くことに
 なっている。

 自分の領地に屋敷のあるミルズ男爵は、ここジャブロウではホテル住まい
 という設定らしいが、実際はそうではない。

 そんなこと、ホテルの従業員からばれるんじゃないの、と言ったフィーネに
 ユアンは、ふふんと鼻先で笑ってみせた。



   「劇団の人気役者を抱きたいと思う貴族や金持ちは、結構いるものでね」



 いつものごとく、突拍子もない話から始まったユアンの説明に、フィーネは 
 口をあんぐりとあけた。



   「このホテルは、役者と客の逢引によくつかわれる」



 ユアンが間を取り持つこともあるし、ユアン自身が客から誘われる
 こともある。

 裏稼業のこともあり、ユアンは極力表にはでないようにしているが、
 それでも人気劇作家が類稀なる美貌の持ち主だと聞いた客が、
 ユアンに興味をもつこともよくあることだ。



   「このホテルの従業員は、おっぴらにできない事情を抱えた客には
    慣れているし、支配人にはまとまった金も渡してある」


 なんでもないことのように、そうさらりと言われ、フィーネはくらりと
 目眩がした。

 
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