甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
品の良い上等の家具を置き、応接室付きの特別な客室まで備えた
このホテルはなかなかのものだ。
それなのに......。
「一流ホテルだからこそだよ。客のプライベートには
絶対立ち入らない」
まるで、フィーネの胸の内を見透かしたような言葉に、軽い頭痛をおぼえた
とき、コンコンとドアがノックされ、客室係が来客をつげた。
立ち上がったユアンがドアまで歩き、しばらくして入ってきたゴードン氏と
固い握手をかわす。
「ようこそいらっしゃいました」
「さすがに良いところにご滞在ですな」
「どうぞ、中へ」
バウラウ島名産の紅茶をフィーネが淹れ、これまたバウラウ島でしか
味わえないというお菓子をつまみながら、ゴードン氏はリラックスした
様子で、ミルズ男爵との会話を楽しんでいる。
晩秋にしては明るい日差しが差し込み、部屋の中には穏やかな空気が
流れていた。
しかし話が今回の共同事業のことに及び、ミルズ男爵が工房とゴードン氏が
交わした契約書のことに触れると、ゴードン氏は少々難しい顔になった。
「契約書ですか」
「そうです、あなたがテグサ織り工房とかわした契約書です」
「いや、しかし、男爵がその契約書を見る必要は、特にはないで
しょう?」
「以前バウラウ島で現地の人間を雇うのに、元々の契約書がきちんと
されていなかったことがありましてね。
結局、人は雇えなかった。
そういう苦い経験があるものですから」