甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
ゴードン氏を見送ったあと、窓辺に立ち、氏がホテルから出ていくのを
確かめたユアン呟いた。
「あと、1日だ」
そして今度は室内に向きなおり、明るく言う。
「工房が自由になる」
それはフィーネにむけた言葉だったが、カップや皿をワゴンに片付けて
いたフィーネは返事をしなかった。
そう、あと一日、あと一日でミルズ男爵も男爵夫人もいなくなる。
自分がもうミルズ男爵夫人になる必要はなくなる......。
その時フィーネの心を占めていたのは、工房のことよりも、そのこと
だった。
変に自覚してしまった恋心が、フィーネを混乱させている。
好きだと思う。
でもフィーネはまだその気持ちに抗っていた。
だって、相手は自分を騙し、誘拐してきた男だもの。
物思いにふけりながら、かちゃんと皿をおけば
「どうしたんだ?」
とすぐ後ろでユアンの声がして、フィーネは飛び上がった。
「なんか変だよな、ここのところ」
「別に、変じゃないわ」
動揺を押し隠し、そう言い返したが、最近フィーネがユアンを
避けているのは事実だ。