甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 ユアンの仕事用の広いデスクの上に、蓋に彫り込みのある木箱をのせ
 セオは、どうだ、と言わんばかりに、腰に手をあてて胸をそらせた。



   「形、色、蓋の彫り、すべて本物そっくりに仕上げた。細く見れば
    違うところもあるが、簡単にはわからない」

   「うん、いい出来だね」

   「当たり前だ、但し中身はただの紙」


 本物の木箱には、ゴードンが工房と交わした契約書が入っている。
 
 ユアンは明日、木箱ごと契約書をいただくつもりだ。

 ゴードンがほんの少し目を離したわずかな時間に、本物と偽物を
 取り替える。

 ゴードンを木箱から離れたところに誘い、たっぷりと時間をとって
 中身をすり替えた方が確実だが、用心深い彼のことだ、疑いを持つ
 可能性も多いにある。

 だから、彼の注意をそらす時間は長くない方がいい。

 木箱ごと取り替えるに足りて、それでいて疑いを持たれないほど
 短い時間。

 そのためにセオが、ゴードン邸にもぐりこんで、木箱を写しとり
 本物そっくりの物を作った。

 
 すべては明日、一瞬で決まる。



   「それで、重要な役割をはたすフィーネに計画は話したのか」

   「いや、まだだ」



 その返事に、セオは器用に片眉だけあげ、なぜ?と問う顔になった。



   「どうせあいつはいろいろ考えて、今晩寝られなくなるだろ
    プレッシャーを感じる時間を減らして、勢いでやらせた方がいい」

 
< 135 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop