甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

   「お約束のものはこの中です」



 そう言いながらゴードン氏が、木彫りの箱を応接室のソファテーブルの
 上に置く。

 指がまだ木箱の縁にかかっているのは、中を見られることにまだ、
 躊躇いがあるからだろう。

 そんなゴードン氏に、ミルズ男爵......ユアンはやんわりと微笑みかけた。



   「ありがとうございます、我儘を言ってすみません」


 そう言いながら男爵が頭をさげれば、氏はやっと箱から手を離した。

 微笑みを深くし、ミルズ男爵は箱をひきよせ、蓋を開ける。

 中に入っている紙の表書きとサインを確かめ、内容を読むことはせず、
 すぐに箱の中にしまう。

 言葉通りに、内容に目を通すことなく契約書が箱に戻されたのを見て、
 ゴードン氏はほっとしたような顔をすると、ソファの背もたれに
 ゆっくりと身を預けた。

 そんな二人の様子をフィーネは紅茶を淹れながら、注意深く見守っていた。



 ” うまく上着にだけ紅茶がかかるようにするんだ  身体にかかって大騒ぎに
 なっては困る"  とユアンは言った。

 つい先ほど聞かされた計画を、もう一度頭の中でなぞってみる。

 うまくやれる気がしない。

 だから、できないと言ったのに、すぐにゴードン氏がやってきて、話し合う
 時間はなかった。

 フィーネに反論する時間を与えないよう、計ってユアンはこのことを告げた
 のだと思えば腹が立って、昨日からの諸々も含めて睨みつけたけれど、
 ユアンはさっと身を翻し、ゴードン氏を迎えにドアにむかって行ってしまった。

 だからやるしかなくなって、フィーネは今、ダイナマイトでも抱え込んだ気分
 で、ワゴンにむかって紅茶を淹れている。
 
 

 
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