甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
(2) ユアン・ヴィードという男
「何ということしてくれたんだ お前は!」
伯爵邸のファミリールームにボルドール伯爵の怒鳴り声が
響きわたり、そんな夫をなんとか宥めようと、ボルドール夫人が
伯爵の腕に手を伸ばすがそれを邪険に振り払って、ボルドール伯爵は
腕を振り上げた。
震えながらうずくまっている女の前まで行き
「お、お前は!」
と唸るような声をだす。
ボルドール伯爵の前に泣きながらうずくまっているのは
クリスティーナだ。
「だって、だって......愛してるって言ってくれたの、
結婚もするって誓ってくれたの......だから!
少しだけ、見るだけだって言われて、私......」
「だから、あれを持ち出したのか!」
「すぐに返すって言われたわ!」
クリスティーナが持ち出したのは、ボルドール伯爵の祖先が
王家から賜ったと云われている宝剣だった。
「お前は騙されたんだ」
「いいえ、そんなことない。今までこんなに人を好きになった
ことはない、愛しているのは君だけだって」
泣きながらそう訴えるクリスティーナにボルドール伯爵は
力なく腕を下ろすと言った。
「じゃあなんでフィーネを連れていく」
「フィーネ?」
「そうだ、ブランドン伯爵は宝剣とともにいなくなった。
フィーネもだ!」
吐き出されるように告げられた言葉に、クリスティーナは一瞬
ポカンとなったが、ぴくりと体を震わせると、うーんと唸って
その場に倒れた。