甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
(11) レナルド・オルセン伯爵という男
娼館にフィーネを送りとどけ、ユアンはそのまま ” 工房にいく” と
木箱を持って行ってしまい、 ひとり家に帰り、服を着替え、髪を洗い
鏡にうつる自分の姿を見つめながら、フィーネは、ほっと肩の力をぬいた。
背の中程までのびた少しウエーブのあるブラウンの髪、もう金髪の
ミルズ男爵夫人はどこにもいない。
安堵するような、少しさみしいような複雑な気持ちを抱えながらも
フィーネは難しいことをやり終えた後の高揚感を感じていた。
法を犯すようなことをしたしまったという、後悔や罪悪感は薄れている。
だが、それは、ユアンがなかなか帰ってこないことで、少しずつ不安に
とってかわっていった。
どうしたんだろう。
まさか、ゴードン氏が箱が偽物だということに気づいた?
中身がただの紙切れだとわかったら、ゴードン氏はどうするだろう。
ホテルに乗りこむ? でも、もうそこにミルズ男爵夫妻はいない。
工房へ行く? そしてそこで、契約書を持ったユアンと出会ったとしたら。
だから、ユアンが帰ってこないのかも。
嫌な想像ばかりが頭に浮かぶ。
それに、さっきまで青空の見えていた空に、急に鈍い色の雲が広がり始め
ごろごろと遠くに雷の音がすることが、さらにフィーネの不安を煽った。
お願い、ユアン、早く帰ってきて......。
ピカっと稲光が暗い空に走り、すぐにドォーンというような雷鳴があたりの
空気を震わせた。
横なぐりの雨が激しく窓ガラスにあたり、強い風がガタガタと窓をゆらす。
遠くに聞こえていた雷は風や雨もひきつれて、今はもう、激しい嵐に
なっていた。