甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
館自体はたいして大きくないようで、階段を降りたそこはもうリビングと
ダイニング、窓際に近いダイニングテーブルでユアンが紅茶を飲んでいた。
いつものように朝日をあつめて輝く金髪が、なぜかいつもより長く伸びていて
首の後ろでひとつに結わえられている。
瞳は醒めたアイス・ブルーのまま。
それにシャツとベストという軽い服装だが、タイを結び、彼はまた貴族の子弟
のようなかっこうをしている、フィーネが身につけているのも、貴族の令嬢が
着るようなドレスだ。
テーブルに近づいたフィーネに気づき、
「やあ、よく眠れた?」
と屈託のない声でユアンが言い、そのあまりにもなんでもなさそうな
問いかけに、フィーネはむっと口を尖らせた。
「いったいここはどこ? それにその姿は何? 工房に行くといった
きりちっとも戻ってこなくて、やっと帰ってきたと思ったら
嵐の中を、人を荷物みたいに馬車につみこんで。
あなたがなかなか帰ってこないから、私、死ぬほど心配したんだから
嘘がばれたんじゃないかって、ずっとそればっかり考えてた。
そしたら、そのうち雷が鳴りはじめて、もっと不安になって、それでも
ユアンが帰ってこないから、ひとりで......ひとりで......
怖かったんだから!」
きゅっ拳を握りしめ、一気に捲し立てたフィーネの剣幕に、ユアンはちょっと
目を見張り、わずかに背をのけぞらせたが、すぐに、ニッと口の端をあげると
目を細めた。
「まぁ、座りなよ、ちゃんと説明するからさ」