甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
フィーネの前に紅茶のカップを置き、自分も席に着くと
ユアンはゆるく指を組む。
「その後の話を順番にすると、まず今日の午後にはミルズ男爵の代理人
という男が、ゴードン氏のところを訪れる。
彼は、申し訳なさそうな顔で頭をさげるとこう言うんだ。
” ミルズ男爵夫人の持病が急に悪化し、夫妻は急遽里帰りをされました
よって、共同事業の計画は、一時保留としていただきたい” 」
「持病? 私って持病持ちっていう設定だったの?」
「ああ、ゴードン氏との会話の中には折り込み済みだし、君はいつも
伏し目がちにしてただろ、身体が弱く見えなくもなかった。
もっとも君は、人に話しかけられて嘘がばれると困るから、
そうしてたんだろうけどね」
なんだろう、そのユアンの言い方......ちょっと癇にさわる......。
フィーネはかすかに眉を寄せ、じろっとユアンを見る。
「まあ、相場の二倍の手付金を男爵は置いたままだし、ゴードン氏は
ミルズ男爵を信じて待つ気になるよ。
でも、工房からの納期日になって彼は騒ぎ始める。品物が納められ
ない、 工房が空になってる!ってね。」
「アルンたちは?」
「工房の人たちは、もう新しい場所に移っている。
そして、最後の役者の登場だ、ランディ=パストン氏、彼が、新しい
工房の雇い主。
もちろんゴードンはパストン氏が工房と契約を結んだことを認め
ないだろう。 だがその時になってはじめて、ゴードンは自分の
契約書がただの紙切れに なっていることに気づく」
「ゴードン氏は記憶を辿って、ミルズ男爵が怪しいと思うわね」
「彼がすぐにミルズ男爵を疑うかどうかはわからない、まさかあの、
ほんのわずかな時間に、箱ごとすり替えられたとは
思わないだろうから。
でも、用心をして僕らはジャブロウを離れる必要があった。
実際、ミルズ夫妻はジャブロウを出たんだから、僕たちはそうする必要
があるだろう? 嘘にしないために」