甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
そう言ってからかう目でユアンがフィーネを見る。
癇にさわるどころか、今度は本当にカチンときた。
そんなところだけ本当にしたからって、どうなのかしら!!!
フィーネは今度はしっかりとユアンを睨みつけたが、ユアンはわざとらしく
澄ました顔をすると、平気な素振りで言葉を続けた。
「ゴードン氏は怒り狂うかもしれない、でも、パストン氏は
手広くやっている商売の一つをゴードンに任せるなりなんなりして
怒りをおさめてしまうよ。
ゴードンみたいなチンピラとは違う、彼は本物の商人だ、商いに
とってなにが大切かきちんとわかっている。
工房の人たちもきっと大切に扱われる」
睨みつけていた眉の強張りを解いて、フィーネはユアンを見つめた。
ユアンによる自作自演のこのお芝居は、ハッピーエンドなのだ。
ゴードンにとっても不利益になるばかりじゃない。
「それから何だっけ......ここはどこ?だったね、ここはジャブロウからは
北東にあるペンリスの、今は使われていない狩猟館。
で、どうしてこんな格好かというと、この狩猟館を借りたのが、
レナルド=オルセン伯爵という貴族だから。彼には病弱な妹がいて、
妹の静養のためにここに来た。
妹の名は、エリザ=オルセン それが、君の名だ」
そう言って、ユアンはポケットから度の入っていない眼鏡をとりだすと
ことりと、フィーネの前に置いた。
それは以前、ボルドール邸にいたときにフィーネがかけていたもの。
ブランドン伯爵に外されて、そのままになっていたもの。
告げられた言葉と、さしだされたモノに、フィーネの胸がつきんと痛んだ。