甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
ユアンに少し切られて短くなった髪をローズ色のリボンでしばり
左の肩にたらす。
大げさな変装はいらないからと、髪の色はブラウンのままだ。
度の入っていない眼鏡をかけ、鏡の向こうから見返す自分の顔を
フィーネは見つめた。
” エリザ=オルセン伯爵令嬢は身体が弱く、ベッドに横になっていることが
多いから、髪は結わない。
小さい時から病弱で友達はなく、本を読むことが唯一の楽しみだから
目が悪くて眼鏡をかけている ”
ユアンはフィーネにそう説明した。
家庭教師だろうと、男爵夫人だろうと、身体の弱い貴族の令嬢だろうと
結局フィーネがなんになろうと、ユアンにとってはすべて同じ。
ユアンにとって思い通りの姿であればいいだけ。
髪の色も瞳の色も、自分の色、眼鏡をかけていても顔立ちはフィーネの
ままなのに、フィーネは自分が自分でなくなったように感じた。
鼻先がくっつくくらい鏡に顔を近づけると、グリーンの瞳が自分を見返す。
だが吐く息が鏡を白く曇らせて、顔はすぐに見えなくなった。
どうしてユアンの言う通りにしてるんだろう......。
どうしてあんな薄情なやつを、好きになっちゃったんだろう......。
その時、コンコンとノックの音がして、キィとドアが開いた。
入ってきたのはセオだ。
「やぁ、久しぶり」
いつものくだけた格好と違い、下ろした肩までの髪を丁寧に後ろになでつけ
きちんとベストに上着まで着込み、ご丁寧に白手袋まではめている。
彼はフィーネの怪訝そうな顔の意味を理解したのか
「アルバートといいます。オルセン家に仕える従者でございます」
と、片手を前にきちんと腰をおって礼をした。