甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
「どうされたのですか?」
まるで澄んだ小川のせせらぎのような声が、聞こえ
「妹が急に倒れて......」
と横にいるユアンが答える。
「まあ、それは大変ですわ」
そういう声とともに、ドレスの裾がさっと動き、フィーネの目の前に
ボンネットを被った貴族の令嬢がしゃがみこんだ。
彼女はフィーネの様子を見るためにしゃがんだらしい。
海の底のような美しいブルーの瞳が心配そうにフィーネを見ている。
卵型の形の良い顔、通った鼻筋、柔らかそうな唇。
美しい人だった。
毛先がカールした黒い艶のある髪がボンネットから肩にながれている。
「もしかしたら、エインズワース子爵のお嬢さんでは?」
そうユアンが問うと、目の前に令嬢は柔らかく微笑んだ。
「そうです、イレーナと申します。そちらは、最近森の狩猟館
に越していらしたオルセン伯爵ですね。
では、こちらは妹のエリザさんでしょうか」
「そうです、今日はじめて買い物に連れてきたのですが、気分が
悪くなったらしくて、辻馬車をひろって帰ろうとしたら
倒れてしまったのです」
「そうですか......」
ユアンの言葉に少し考え込んだ後、イリーナが言う。
「家の馬車がすぐ近くに停めてありますの、よろしければ
お送りしますわ」