甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
「ペンリスの落ち着いた雰囲気が、僕は気に入ってるんです」
「そう言っていただけると嬉しいです。特に何もないところ
なんですけど」
馬車の中では、イリーナ=エインズワース子爵令嬢とオルセン伯爵に
なっているユアンの会話が、途切れることなく続いている。
馬車に乗る前に ” 馬車の中では何もしゃべるな ” と低くひそめた声で
ユアンに言われたということもあるけれど、フィーネはとても会話に
加わるような気分ではなかった。
今日、ユアンがフィーネを買い物につれだしたのは、偶然を装って
エインズワース子爵令嬢に近づくためだった。
彼女の注意をひくために、フィーネを利用した。
楽しかった買い物の時間はすべて嘘だったのだ。
そのことが、酷くフィーネを打ちのめしていた。
それに......。
イリーナを見るユアンの眼差しが、イリーナに話しかけるユアンの
声が、フィーネの胸をざわつかせる。
そんな風に、彼女を見ないで。
そんな声で、彼女に話しかけないで。
苦しい、ここにいたくない。
でもどうすることもできず、フィーネは何も感じ取らなくてすむように
心にしっかりと鍵をかけて、ただ、流れていく窓の外の景色を
眺め続けた。