甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
「さあ、誰なんだろう、僕は......。
自分でも自分がわからなくなるよ。
なんて言えばいいだろう、フィリオ男爵だった男、
ブランドン伯爵だった男......とでも言えばいいかな」
「だった?」
「そう、もうブランドンでいる必要は無くなったから
もう僕はブランドン伯爵じゃない」
そう言いながら目の前に座る男は、かたわらに置いた木箱から
二十センチ程の宝剣を取り出した。
「それって...」
鞘に赤いルビーが埋め込まれたその宝剣は、フィーネも見たことが
あるものだ。
「君も知ってるんだね、これはボルドール伯爵家に伝わる
宝剣」
どうしてそれがここにあるんだろう?
ゆっくりと身を起こし怪訝な顔をしたフィーネに、男がにやり
と笑いかける。
「クリスティーナが渡してくれたよ。僕が見たいと言ったから」
「クリスティーナが」
「そう、こうして望みのものが手に入ったから僕はさっさと
あそこを引き上げることにした」
話の内容はすぐには理解できず、まだどこかぼんやりする頭で
フィーネは考える。
つまり彼はクリスティーナから渡された宝剣を、そのまま持ち出し
たってこと?
じゃあ、クリスティーナに近づいたのは、宝剣を手に入れる為?
それって、フィリオ男爵が結婚を目の前に、持参金と共に姿を
消したのと同じ......。