甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
「じゃあ、あなたって、やっぱり......」
「だから言っただろ、フィリオ男爵だった男、ブランドン伯爵
だった男だって。
みんな素敵な女性ばかりだったよ、甘い言葉を囁けばすんなり
僕の言うことを聞いてくれた。
髪の色も瞳の色も変え、その女性の好みの男になって、
今まで正体を見破られたことは一度もない。
だけど君だけは、なぜかわかるんだよね、僕のことが。」
そう言って身を乗り出し、ずいっと顔を近づけた男はフィーネの瞳
を覗き込んだ。
「なぜなのか知りたくて、君に近づいて色々調べさせてもらったけど
理由がわからない」
そして今度は身を起こし、ばたんと派手にシートにもたれると、
顔を馬車の天井に向け、彼は呟いた。
「なぜなんだろうな......」
「じゃあ、私の話を聞いてくれたのは、私を探るためだったの?」
「そうさ」
フィーネの方を見ようともせず、返ってきた返事はそっけないものだった。
知らされた真実にフィーネは胸がずきりと痛んだが、彼が天井を
向いたままでいてくれてよかったと思った。
きっと自分は今、酷い顔をしている。
それにしても、自分はなんていう人を信用して、しかも好きになりかけて
いたんだろう。
この人は犯罪者じゃないか。
甘い言葉で女性をその気にさせ結婚すると見せかけて、お金や高価な
ものを掠め取る。
結婚詐欺師。
わたしはとんでもない男と一緒にいるんだわ。
ブランドン伯爵の呼び出しだと思ったから、言われた通り何も持たず
伯爵邸を出た、でもすぐに馬車に連れ込まれて......。