甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

   「なにをしているんだ!」



 そう怒気を含んだ声がして誰かが、少年の身体を乱暴におしやり
 力が抜けて座り込もうとするフィーネの両腕を掴んだ。

 よろけた少年はそれでもしっかりと立ち上がり、フィーネを支えながら
 少年を睨みつけているのは、ユアンだ。



   「別に、気分が悪そうだったから」



 少年はまるで敵でもみるような目でユアンを見て、ぼそりとそれだけいうと
 身を翻して裏口から出て行く。

 それを見送り、ユアンはフィーネの方を振り返った。



   「どうした?」

   「なんでもない......」



 実際、今見たことや、少年が言ったことはおぼろげな形でしか、頭の中に
 残っていない。

 すべてが、深い森にたちこめる霧の中に消えていくかのようだった。

 そんなフィーネをユアンは抱き上げ、リビングの暖炉の前まではこぶと
 敷物の上に座らせる。

 馬の嘶きが聞こえ、馬車が走り去る音がし、フィーネはぼんやりと、
 イリーナを見送らなくていいのかと思ったが、ユアンは



   「貧血か? 身体が冷たい」



 と言うと、後ろからフィーネを抱えこんだ。

 暖炉の火で頬が熱い。

 でも、後ろからユアンに触れられているところは、もっと熱いような気がした

 いつものフィーネなら逃げ出していただろう。

 でも、まだ頭がぼんやりとしていて、フィーネは素直に身体を預けた。
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