甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 急に険しくなった道を息を弾ませてのぼり、のぼりきったそこに
 急にそれは現れた。

 静まりかえった鏡のような湖面が、周りの木々の黒い影と空に浮かぶ
 丸い月をうつしている。

 この寒さの中でも、氷は湖を覆っておらず、静かにひっそりと、少女の
 示した場所はあった。

 私を森の湖に返して......と少女は言った。

 少女の故郷だという湖を目の前にして、フィーネはイリーナが貸してくれた
 本にあったペンリスの昔話のひとつを思い出した。

 

 ペンリスの森の湖には、精霊が済んでいた。

 精霊は、ある日森の迷い込んだ少年と出会い、恋に落ちる。

 少年のために人になろうとした精霊は、森の主の怒りをかって、小さな
 石に閉じ込められた。

 昔話の伝えるその石が、このブルー・サファイアにちがいない。

 サファイアの中の精霊は、知らない貴族の手に渡るたびに、持ち主を消して
 エインズワース子爵の元に戻る。
 
 湖から離れないために。




 物思いにとらわれていたフィーネは、サクと雪を踏む音を間近に聞いて、
 弾かれたように頭をおこした。

 月明かりの中、あの銀の髪の少年がいて、フィーネの手の中の
 ブルー・サファイアを見つめている。

 風もないのに、銀の髪を揺らせ立っている少年は、やはり人ではないと
 フィーネは思った。



   「ありがとう、君が彼女を連れてきてくれたんだね。近くにいても
    僕はサファイアにはさわれない、だから、もう彼女がここに来ることは
    永遠にないと思ってた」



 月の光に照らされた少年の顔には、優しい微笑みが浮かび、瞳は愛しさを
 湛えている。

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