甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
ここのところユアンはずっとこんな調子だ。
以前のユアンが、塩気の効いたスパイスクラッカーなら、今のユアンは、
甘いホイップクリームがはさまった、クリームサンドビスケット。
いったいどうしちゃったんだろう?
ジャブロウの娼館の隣の家に戻ってきても、ユアンはなかなか
目覚めなかった。
やっと目を開いたのは二日もたってからだったし、それからも時々は目覚める
もののすぐに意識をなくすように目を閉じてしまうことが続き、やっと最近
目を覚ましている時間の方が長くなった。
そしてなぜか、フィーネをそばから離そうとしない。
そしてなぜか、とてつもなく甘い。
「ふざけるなら、もうお皿を片付けるわよ」
「ふざけてなんかいないよ」
真面目な顔でユアンはそう言うけれど、フィーネはあまりのユアンの
変わりように、かえって信用できなくなっている。
いったい今度は何を企んでいるのかしら。
ブルー・サファイアが ”湖に返った” ということを、セオはすぐに
オルセン家の従者アルバートとして、エインズワース家を訪れ、子爵に
伝えた。
宝石の魔力のせいで、レナルド=オルセン伯爵が目覚めなくなったことも。
予想に反し、サファイアが湖に返ったことを聞いた子爵は、安堵の息を
漏らしたらしい。
子爵家には、湖の精霊の昔ばなしが語り継がれていた。
持ち主が姿を消すのは、その精霊のせいだろうと考えられていた。
だからこそ、宝石を湖に返すべきだと思いながら、宝石の美しさに
そうできないまま、サファイアを持ち続けてしまったのだ、と子爵は語った。