甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 ここのところユアンはずっとこんな調子だ。

 以前のユアンが、塩気の効いたスパイスクラッカーなら、今のユアンは、
 甘いホイップクリームがはさまった、クリームサンドビスケット。

 いったいどうしちゃったんだろう?

 ジャブロウの娼館の隣の家に戻ってきても、ユアンはなかなか
 目覚めなかった。

 やっと目を開いたのは二日もたってからだったし、それからも時々は目覚める
 もののすぐに意識をなくすように目を閉じてしまうことが続き、やっと最近
 目を覚ましている時間の方が長くなった。

 そしてなぜか、フィーネをそばから離そうとしない。

 そしてなぜか、とてつもなく甘い。



   「ふざけるなら、もうお皿を片付けるわよ」

   「ふざけてなんかいないよ」



 真面目な顔でユアンはそう言うけれど、フィーネはあまりのユアンの
 変わりように、かえって信用できなくなっている。

 いったい今度は何を企んでいるのかしら。





 ブルー・サファイアが ”湖に返った” ということを、セオはすぐに
 オルセン家の従者アルバートとして、エインズワース家を訪れ、子爵に
 伝えた。

 宝石の魔力のせいで、レナルド=オルセン伯爵が目覚めなくなったことも。

 予想に反し、サファイアが湖に返ったことを聞いた子爵は、安堵の息を
 漏らしたらしい。

 子爵家には、湖の精霊の昔ばなしが語り継がれていた。

 持ち主が姿を消すのは、その精霊のせいだろうと考えられていた。

 だからこそ、宝石を湖に返すべきだと思いながら、宝石の美しさに
 そうできないまま、サファイアを持ち続けてしまったのだ、と子爵は語った。

 

 
< 190 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop