甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 目覚めないレナルドのことは、イリーナにショックを与えたけれど、
 すでに、妹のエリザとともに故郷に向けて出発したこと、そして
 レナルドには故郷に幼馴染の婚約者がいる、とセオが告げれば、
 イリーナは妙に納得したように頷いたという。



   「あの方は私に愛を囁きながら、いつも違う誰かを見ている
    ようでした」



 とイリーナは言ったらしい。

 恋に身を委ねながらも、イリーナはしっかりと見抜いていたのだ。

 そんな彼女なら、今は辛くても、きっと立ち直ることができるだろう。



   「取り乱して泣き出せば、俺が慰めようと思ったのになぁ」



 とセオはぼやいてたけど。




 すっかり体力をなくしてしまったユアンの世話に追われるうちに
 冬はすぎていき、日差しに春を感じるようになった頃には、ユアンも
 ベッドを離れ、再び、戯曲の執筆に取り掛かるようになっていた。

 でも以前のようにのめり込むように書くことはなく、ぼんやりと
 していることが多い。

 そして、思いついたようにフィーネを呼ぶ。



   「ここに座って」



 そう言って、ユアンが自分の膝に上を指差す。

 最初のうちは逃げ出していたけど、無邪気な子供のような笑顔を浮かべて
 何回も言われるうちに、フィーネはおとなしく座るようになった。

 膝の上に座ったフィーネにユアンは後ろから優しく腕をまわす。

 フィーネの温かさを確かめるように、フィーネの髪に自分の額をこつんと
 ぶつけ目を閉じる。

 そしてじっとしている。

 時々切なげに息を漏らし、フィーネの肩に顔をうずめるけれど、それ以上
 は何もしないから、フィーネは高鳴る胸の苦しさをがまんして静かにしている。

 あの手の早いユアンが、これだけ長い時間一緒にいても、それ以上のことは
 しようとしないのだから、ただ甘えたいのだろうとフィーネは思っている。

 眠ることで身体を癒したように、こうすることでユアンの中の何かが
 癒されるなら、こうしていよう。

 彼はこうして、イリーナを忘れようとしているのかもしれない。
 
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