甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 暖かさと寒さを繰り返しながら、早春のスピノサスの花が咲き、
 二日ほど続いた雨の後、春の訪れを乞うブリオデグの日がやってきた。

 暖かい春の訪れを待ち、若い娘がスピノサスの花枝を持って舞い踊る
 祝祭日だ。

 ずっと家に籠っていたからたまにはと、フィーネはユアンとともに
 ジャブロウの町へ乙女の舞いを見に来ている。

 一雨ごとに暖かくなるというけれど、本当に春を感じさせる穏やかな
 一日だった。

 ジャブロウの町の広場に、乙女の踊りの輪がひろがっていたが、人混みは
 疲れるからと、広場のすみのベンチに腰かけ、ユアンとフィーネは陽気に
 騒ぐ人たちを見ていた。

 ふーと息を吐いたユアンが、深くベンチの背もたれにもたれかかる。



   「疲れたの?」



 フィーネがそう声をかけると、ユアンは、んっと、短く唸るような声をあげ
 ぽすんとフィーネの膝に頭をのせてきた。



   「ユアン!」


 とフィーネは声をあげたが、ユアンは " 少しだけ ” と言うと目を閉じてしまった。

 今日は暖かいからいいと思っていたけど、ずっと何日も眠っていたユアンの
 身体には、キツかったかしら。

 そう気遣いながら、フィーネは巻いていたショールをユアンの肩にかける。

 金の髪をさらりとフィーネの膝にこぼし、目をつむっているユアンの頬は
 痩せたせいか線がシャープになっていて、触れたいと思う気持ちとフィーネは
 戦わななくてはならなかった。

 温めてあげたい、でもそんな恋人のようなことできるわけがない。

 ジャブロウに帰ってきてから、ユアンはなんだか優しいし、とっても甘えて
 くるけれど、それをどう受けとっていいのかわからず、フィーネは警戒して
 いる。

 だって、ユアンはいくらでも嘘をつける人だもの。

 嘘を本気にしたら、傷つくのは自分だから。

 そうかと言って突っぱねてしまえない、心のどこかで期待して、どきどき
 している自分がいる。
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