甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
煌々とシャンデリアが灯り、そこかしこに飾られた花が広間を色鮮やかに
彩っていることだろう。
美しいドレスや仕立てのいいイブニングコートに身を包んだ紳士淑女が
軽やかに笑い、踊っているだろう。
自分にはもう縁のなくなった世界、今の自分には場違いな世界。
確かに、こんな格好で広間をうろつけば目立ってしまう。
それに何より夜会の華やかさを知っている自分が、余計に自分を
落ち込ませ、足を進めなくさせていた。
「いい加減にしなさい、フィーネ、あなたはもう男爵令嬢じゃ、
ないのよ」
フィーネは、ここからは遠い北部に小さな領地をもつ、モルトン男爵の
娘として生まれた。
母親は早くに亡くなったが、父であったモルトン男爵は一人娘のフィーネを
とても可愛がってくれた。
でもその父が亡くなると、どういう手を使ったのか、父の遠縁だと名乗る男が
男爵家のすべてをフィーネからとりあげ ”花嫁修行だ” とボルドール伯爵
のところへ、フィーネを追い払ったのだ。
伯爵邸に来て知ったことは、花嫁修行が嘘だということ、そして
自分がもう男爵令嬢ではないということ。
身寄りのないものを善意で置いてやっているんだからと、家庭教師をさせら
れてもう二年が経つ。
ここにいるしか、今はしょうがない。
でも、いつか帰りたい、と故郷ヨールドのことをフィーネは想う。
「だから、伯爵のご機嫌を損ねるわけにはいかないんだから」
もう一度声にだして呟いて、フィーネはやっと重い足を動かした。