甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 肩まであるストレートの黒髪、額にかかる黒髪の奥から伯爵を
 見つめる瞳は、ブルー・グレイ。

 ブランドン伯爵の姿のユアンがそこにいた。

 声でユアンだとわかっていたけど、そんな姿でやってきたら、
 ごまかすことなんか出来ないじゃない!



   「やっぱりお前たちはグルだったんだな」

   「彼女は関係ありませんよ、伯爵。宝剣を持ちだす計画に
    気づかれて仕方なく連れてきたんです」

   「ふん、そんな言い訳はいい、宝剣は? 宝剣をどうした!」

   「僕はもう持っていません」

   「なんだと!」

   「盗品をいつまでも手元に置いておくほど、バカじゃないのでね」



 ユアンの言い方にカッと頭に血を昇らせたボルドール伯爵は、さっと腕を
 あげると、銃口をユアンに向けた。



   「くそっ、殺してやる」

   「やめて!」



 フィーネは夢中で立ち上がると、伯爵に体当たりをした。

 ユアンに気をとられていた伯爵はフィーネの行動に驚きよろけ、その隙を
 ついてユアンがすばやく伯爵に近づき、伯爵の手から拳銃を奪おうとする。

 二人は激しくもみあい、しかし突然、バン!と鋭い発砲音が、広い工房内に
 響き渡った。

 唐突に動きを止めた二人のうち、



   「う、あ、あ、......」



 と呻き声をあげながら後ずさったのはボルドール伯爵だ。

 伯爵に向かい合うように突っ立ったユアンは、まるで彫像になってしまったか
 のように動かないが、ただ、着ている白いシャツの胸がみるみるうちに、
 真紅に染まっていく。



   「ユアン!」



 フィーネがそう叫び声をあげるのと同時に、ユアンががっくりと膝をつき、
 そしてゆっくりと、床に倒れた。
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