甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 フィーネはユアンのもとに駆け寄ったが、両腕が縛られたままなので
 ユアンを抱え上げることができず、身を折り、耳元でユアンの名を呼ぶ
 ことしかできない。

 その様子を青ざめた顔で見ていたボルドール伯爵は、よろよろと工房の
 入り口の方へ向かうと、最後は駆けだすようにして工房から出て行って
 しまった。



   「ユアン、お願い。目を開けて」



 フィーネの必死の呼びかけに、仰向けに倒れていたユアンが、うっすらと
 目を開ける。



   「フィー......」



 力のない声がユアンの口から漏れた。



   「待ってて、誰か呼んでくる、すぐにお医者様に見せないと」



 だが、立ち上がろうとするフィーネのドレスの裾をユアンがぎゅっと握った。



   「どうせ、間に合わない」

   「でも!」

   「ここにいて、僕のそばに、死ぬ時に独りは嫌なんだ」



 躊躇い、でも、泣きそうな顔でユアンのそばに座りこんだフィーネを見て
 ユアンがかすかに微笑む。



   「こんなふうな結末になっても構わないと、いつも思っていたのに
    今の僕は......とても心残りだ」


 伸ばされるユアンの手を握れたらとフィーネは縛られている縄をはずそう
 としたが、それは叶わなかった。

 口惜しげに唇を噛むフィーネの頬に、ユアンの指が触れ、そっと頬を撫でる。



   「君だけが、本当の僕がわかる、君だけが、僕の心を本当にする。
    愛してる......フィーネ」

   「ユア......」



 しかしフィーネが答える間もなく、頬に触れていた指がふっと離れ、
 そのまま力なくユアンの腕は崩れおちた。



   「ユアン!」
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