甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
当然のごとく、いつもの調子でまくしたて始めたうるさい口を、ユアンは
すばやく唇でふさぐ。
頬を染めて、潤んだ瞳で煽るそっちが悪いんだからな!
自分で仕掛けたくせに、いつもユアンはフィーネに囚われたように感じる。
どれだけ味わっても、味わい足りない。
フィーネのせいだと言い訳しながら、国王に会うということで自分はどこか
冷静でいられなくなっているのかもとユアンが自嘲の笑みをもらした時、
すぱーんと後ろから頭をはたかれた。
「なにやってんだ、おまえらは」
「いってぇ」
痛む頭をおさえて振り返ると、呆れ顔のセオとマリーが立っている。
「だって、ユアンが無理やり......」
泣きそうな声でフィーネが訴えて、マリーがじろりっとユアンを睨んだ。
「フィーネさんのことが好きで好きで堪らないのは知ってますけど
時と場所を考えてください。
あー、せっかくの口紅が、取れちゃってるじゃないですか!」
ぶつぶつ文句を言いながら、マリーがフィーネを鏡台の前につれていき
残されたユアンにセオがハンカチをつきだした。
「反対におまえは口紅がついてる」
「ああ、すまない」
「今や国王にもお目通りがかなう国民的人気の劇作家が、妻に盲目の
こんな腑抜けの変態で、いいのかね」
「おまえだって同じじゃないか」
「俺はマリーに、無理やりはしない」
二年前、拳銃で撃たれ生き返ってから、ユアンはもう力を使えなくなった。
どんなに念じても、何も変わらない。
そのことをユアンは、まるで心にぽっかりと穴が開いたように感じたが、
同時に解放されたとも思った。