甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
結局ユアンはバーバラに、フィーネは自分の客だと説明して
部屋を一つ貸してやってくれ、と言うと、セオという男とともに
どこかへ行ってしまった。
ユアンがいるうちは機嫌の良かったバーバラも、フィーネと
二人だけになると面倒くさそうな顔をし、フィーネについて
こいと顎をしゃくる。
つれてこられた部屋には、ベッドと、鏡の置かれたチェストが
あるだけだった。
戸口に立ったバーバラが、ひょいと固いパンを投げよこして
言う。
「今日は店が休みだから、店の女の子も街へ出かけてて
誰もいない。
夕食もないから、そのパン一個食べて、さっさと休みな」
気がつけば、もう窓の外は暗く、バタンとドアが閉まりバーバラが
行ってしまうと、フィーネは力なくベッドに座り込んだ。
ここはどこなんだろう。
伯爵邸を出たのはまだ朝早かったから、一日馬車に揺られていた
としたら、随分遠くまで来てしまったのかもしれない。
いなくなったフィーネに気づいて、伯爵邸はどんな騒ぎになっているだろう。
「私より、なくなった宝剣の方で騒ぎになっているかも
しれないわね」
自嘲ぎみにそう言ったが、少しは心配してくれているかもしれない
と心の隅で思ったりもする。
ひょっとしたら、探してくれようとしているかもしれない。
それが持ち去られた宝剣の為だとしても、少しは希望があるような
気がした。
「とりあえず、娼館に売られるわけではなさそうだし」
そう考えたらちょっとだけ元気が出そうだった。
握りしめていたパンを少し齧り、疲れて横になったフィーネは
気づかぬうちに、眠ってしまった。