甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
王家からつかわされた馬車はすばらしいものだった。
日が落ちてもなお明るいショウウインドーと、眩いばかりのガス灯が
ともる王都のストリートを、馬車は王立劇場をめざして進んで行く。
フィーネはふと急に口数の少なくなったユアンを見やった。
ホテルではあんなふざけた態度だったのに、今は物思う表情で窓の外を
眺めている。
「どうしたの?、やっぱり少し緊張してる?」
「いや」
窓の外に向けたいた視線をフィーネに戻し、ユアンは答えた。
「陛下に謁見することは名誉なことだと思っているし、
緊張はしてないよ、ただ......」
「?」
「君が貴族だったということを思い出しただけ」
そう言えばいつだったか、やはり馬車の中で同じようなことを言われ、
冷たい視線を向けられたことがあった。
「ボルドール家には戻れなかったにしろ、モルトン男爵の不正を証明
できれば君は貴族に戻れる。今晩、陛下にお会いして、そうして
下さいとお願いすれば......」
「ユアン?」
「ただ、僕は貴族にはなれないから、僕たちの未来が少し変わることに
なるかもしれないけど」
切なげに、そして苦しげにユアンはフィーネを見つめた。
そこには、以前のような冷たさはもうない。
確かに、貴族に戻ることも、今ならばできるかもしれない。
「こんなふうに着飾って舞踏会に行くのが夢だったわ、そしていつか
素敵な貴公子と巡り会えたらって思ってた」
「......」
フィーネの言葉に、ユアンがすっと目をそらし、堪えるように唇をきゅと
引き結ぶ。
「でも、私、地位やお金を持つ人たちの影になにがあるのか、
今はわかるの。
貴族に戻りたいなんて思わない。
私の夫は、横暴でわがままで、女たらしの、もと詐欺師だけど......
私は、あなたがいいの.......。
これ以上言わなくたって、わかってるでしょ」