甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
フィーネの言葉が終わっても、ユアンは何も言わなかった。
ただ黙ってフィーネを見つめ、そしてきゅっとユアンが眉をひそめたので、
フィーネはどきっとした。
あら、私なにか間違ったかしら?
フィーネの精一杯の言葉を喜んでくれると思ったに、ユアンはがっくりと
肩をおとす。
もと詐欺師なんて言ったから、機嫌を損ねた?
それとも女たらし......のところ?
不安にかられてユアンの方へ手を伸ばしたとき、ユアンがいきなりふせていた
顔をおこしたので、フィーネはぴくりと動きを止めた。
「くっそ! 今すぐ抱きしめてキスしたいのにできないなんて、
なんの拷問だ!!!」
外にいる御者にまで聞こえるんじゃにかという大声でユアンが叫び、身の危険
を感じたフィーネは乗り出していた身体をすばやくおこすと、さっと座席の
隅まで一瞬で逃げた。
ユアン=ヴィード作 『真実の愛 〜 始まりの物語』は、百年たった今も、
まだ上演され続けている。
もちろん劇作家 ユアン=ヴィードは、もうこの世にはいない。
彼は数々の名作を世に送り出したが、晩年は病にふせることが多かった。
そして、元気に彼の看護をしていた最愛の妻フィーネが、あっけなく流行りの
風邪で亡くなると、後を追うように息を引き取ったという。
そして、エイヴォン王国の北ヨールドで、二人は今も一緒に、
静かに眠っている。
〜 END 〜