甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
自分にあたえられた部屋に駆け込み、バタンと戸を閉めベッドに
とびこむと、フィーネは枕に顔を押し付けた。
子供のように思い切り声に出して泣きたかったが、だれかに聞かれたらと
思うとそれもできず、枕に顔を押し当ててフィーネは泣き声を我慢した。
ーーブランドン伯爵と家庭教師は、恋に落ちただろーー
彼にそんな風には言われたくなかった。
優しい言葉も、甘いしぐさも、切なげな表情も、すべて嘘にしたのは
ユアンなのに
恋に落ちた事実など、砂つぶほどもなかったくせに!
一度堰を切った涙はとまらず、後から、後から溢れ続ける。
どれだけ泣いていただろう、やっと涙がおさまって、フィーネがただ
ぼんやりと枕に頭をあずけていると、トントンと遠慮がちに部屋の戸が
ノックされた。
誰だろう? ユアンだろうか......。
だとしたら逢いたくない。
泣き腫らして腫れぼったくなってる目や、擦りすぎて赤くなっている
だろう鼻の、こんな顔の今は、絶対に逢いたくない。
今どころか、もうこれから先、ずーーーっと逢いたくない!
無視していると、また遠慮がちにだが、部屋の戸がノックされる。
少し考えて、フィーネはのろのろ身を起こすと、身構えながら
返事をした。
「はい、どなたです?」
予想に反して聞こえてきた声は、鈴を転がすような可愛らしい声だ。
「あの、私、ここで小間使いをしているマリーと言います」
ドアをあければ、そこには、十五か十六才ほどの女の子が立っていて
フィーネを見ると頭を下げた。
「ユアンさんに頼まれて持ってきました」
そう言ってマリーが差し出したのは、数枚のドレスと下着だ。
「ドレスはお姉さんたちのお古しかなくて、でも下着は新しい
ものです」