甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
広間の入り口まで来たものの、やはり中に入るのを躊躇って、テラスの
方へとまわったのは、庭へと続くテラスからなら目立たず中を覗ける、
と思ったからだ。
薄暗い中をつまずかないように慎重に歩き、灯りの漏れるテラスまで来た時
密やかな話し声が聴こえて、フィーネは足を止めた。
「あぁ、今宵のあなたは夜露をのせて開くアメリアの花のようだ」
「あなただっていつもに増して素敵ですわ、一体何人の令嬢が
あなたに熱い視線を送っていたか、ご存知?」
灯りのあまりと届かないテラスの片隅に、ぼんやりと二つの人影がある。
どうやら人目を忍んで、若い男女が愛を語り合っているところらしい。
「どれだけの女性に熱い視線を送られようと、僕が見つめ返すのは
あなた一人ですよ。クリスティーナ」
えっ、クリスティーナ?
邪魔をしてはいけないと、踵を返そうとしたフィーネは男性が呼んだ
名前に興味を惹かれてふりかえった。
クリスティーナ=ボルドール。
ボルドール伯爵の長女でありクララの姉。
確かに美しい金髪の美人だけど、底意地の悪いワガママ娘。
父親である伯爵の前では猫を被っているが、フィーネや使用人に
対してはいつも威張りちらし、無理な命令ばかりする。
へぇ〜 クリスティーナに恋人が?
好奇心にかられ、フィーネは見つからないようにさらにテラスに近づくと
テラスの天井を支える丸い柱の陰から首を伸ばした。
こちらに斜めに背中を向けているのは、確かにクリスティーナだ。
そして彼女に向かいあうように、スラリとした体躯の男性がクリスティーナ
の腰に手をまわしている。