甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
二人のいるところは薄暗くて、顔ははっきりとはわからなかったが、ちょうど
その時、広間のカーテンがさっと動いてテラスに灯りが射し、クリスティーナ
に向きあっている男性の顔が薄闇の中に浮かび上がった。
肩まであるストレートの黒髪に、通った鼻筋、形の良い唇。
額にかかる黒髪の奥の瞳の色は......ブルー・グレイ。
クリスティーナを見つめて微笑むその顔は、そのまま写し取って
絵画として飾りたいくらい整っている。
だが、その顔を見た途端フィーネは妙な既視感に襲われて眉を寄せた。
......フィリオ男爵?
いや、まさかそんなはずはない。
彼はもっと短いブラウンの髪だったし、瞳の色は黒かった、そう否定するが、
心に浮かんだ名前はなかなか消えていかなくて、フィーネはさらによく見ようと、
一歩足を踏み出した。
パキッと足元で音がする。
落ちていた小枝を踏んだらしい。
静かな庭へと続くテラスでは、そんな小さな音も大きく聞こえて、
案の定、クリスティーナがこちらをふりかえった。
「誰? 誰なの!そこにいるのは!」