甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 ユアンに連れてこられたのは、向かい合うように建つ家の
 二階にある一室、フィーネをソファに下ろすと、ユアンは何も言わず、
 すぐ部屋を出て行き、フィーネは唖然と周りを見回した。

 なに、この部屋?

 ドアと窓以外の壁のほとんどは本棚になっていて、天井に届くほどの高さの
 棚は本や巻紙で埋め尽くされている。

 窓に背を向けるように置かれた、オーク材の大きなデスクの上にはいくつもの
 インク瓶と羽ペンがあって、分厚い紙の束が ”どん” と置かれている。

 そして、その周りにも、床にも文字が書き込まれた紙が散乱している。
 
 綺麗な紙が大半だが、くしゃくしゃに丸められた紙も、びりっと乱暴に
 破られた紙も......。

 そして、ユアンが出て行ったドアとはまた別のドアがあり、少し空いた
 戸口からは、ベッドが見えた。

 ユアンの部屋なのかしら、 でも.......

 落ちている紙の一枚に手を伸ばそうとしたところで、ぎいっとドアがあき
 ユアンが部屋に戻ってきて、慌ててフィーネは手を引っ込めた。

 勝手に見てはいけない気がしたから。

 だが、フィーネの行動がわかっていただろうに、ユアンはなにも言わず
 ソファまで歩いてくるとフィーネの足元にしゃがみ、フィーネの足を持ち上げ
 持っていたタオルで傷ついた足裏をくるむ。

 お湯に浸してきたのだろう、暖かく湿ったタオルの熱がじんわりと
 フィーネの足に伝わる。

 そうして血と汚れを拭き取ると、ユアンは持ってきていた箱の中から
 止血の薬を取り出した。

 丁寧に薬を塗り、包帯を巻いていくユアンの指が触れている足先が、
 なんだがむずむずとくすぐったくてフィーネは身じろぎした。


   
   「あ、あの、ここはユアンの部屋?」


 
 気をそらせたくて、そう問うたフィーネにユアンがそっけなく答える。


   
   「そうだけど」

   「すごい数の本ね、それになにか、紙がいっぱい散らかってて」

   「ああ、仕事の途中だったから」

   「仕事?」

 
 
 
 
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