甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 
(5) 穏やかな一日

 連れてこられたのは、ジャブロウの町のメインストリートだった。

 馬車が行き交う車道の脇に歩道があり、両側に様々な店が軒を連ねている。

 パン屋に靴屋に、食料品店、紳士物の小物をあつかう店、ジャブロウは
 フィーネが思っていたよりも、大きな町だった。

 てっきり紳士物の取りあつかいの店に行くと思っていたのに、ユアンが
 フィーネをうながして入ったのは、婦人物の衣料をあつかう店。


   「いらっしゃいませ」


 近づいてきた店員にユアンはとびきりの笑顔をむける。 


   「彼女に合う服がいくつか欲しいんだけど」


   「えっ、私の?」


 その言葉を聞き咎めて、フィーネがおどろいた声をあげると、店員が
 にっこりと笑った。


   「まあ、旦那様から奥様へのサプライズのプレゼントですか」

   「あっ、いえ、ちが......」


 慌てて否定しようとした言葉はユアンの指に遮られた。
 
 突然、立てた指を唇に押しつけられてフィーネは赤くなり、それを見て
 やっぱり勘違いしている店員が、さらににっこりと笑う。


   「仲がよろしいですね」


 仲がいいわけないじゃない!!

 動揺する気持ちを押し切るように、フィーネは心の中できっぱりと否定した
 が、唇から指を離したユアンにやさしく肩を抱かれ耳許で囁かれて、
 フィーネの気持ちは曖昧になった。


   「選んでおいでよ」

   「で、でも」

   「頭のてっぺんから、足の先まで、僕好みに仕立て上げるっていうのも
    興味深いけどね」



 意味深に、ユアンはくっと口角をあげ、冷めたアイス・ブルーの瞳に艶やかな
 色を滲ませる。



   「なっ......」

   「でも、まあ、普段使いの服だから、見た目より着心地で選んだほう
    がいい。 残念だけど」

   


 本当に残念だというように聞こえて、フィーネの胸がとくんと鳴る。

 何を考えているのかしら。

 そう思いながらも、もう否定的なことは言えなくなって、フィーネは
 ユアンに言われるままにドレスを選んだ。
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