甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
「あ、ちょっと」
並んで歩いていたユアンが足を止めたのは古本屋だった。
何冊もの本が台の上に所狭しと並べられ、くるくると丸めた、
端の ボロボロになった巻紙が、何本も立てかけられている。
「探している資料があるかもしれない」
そう言って、ユアンはフィーネの手を外すと台に近寄り、巻紙を
広げはじめた。
資料というのは、芝居の脚本を書くためのものだろう。
巻紙は古い家系図のようだった。
熱心に見ているユアンのとなりから、フィーネも覗き込んでみたが
古い書体で書かれている文字はどれも読みづらくて、何が書いてあるのか
さっぱりわからない。
しばらく巻紙に顔を突っ込んでいるユアンの姿を眺めていたが、そのうち
あきてきて、フィーネは一人でぶらぶらと歩きだした。
そんなに遠くへ行かなきゃ、大丈夫よね。
時々振り返って、ユアンがまだ店の前で古い紙に顔を突っ込んでいるのを
確かめる。
そしてまた少し歩く。
気をつけていたはずなのに、並んでいる店のめずらしい品物に気をとられて
歩いていたからか、気がつけばフィーネはマーケットの端まで来ていた。
慌てて引き返そうとしたが、ぐいっとスカートの裾を引っ張られ、見ると
マーケットの端で地面に売り物を広げている少年が、フィーネの
スカートを掴んでいた。
「見ていっておくれよ、綺麗だよ」
早く戻らなければと気が急いていたが、少年の手に、声に、必死なもの
を感じて、フィーネは差し出された売り物を手にとる。
それは単純な形の布の袋だったが、使ってある布が見事だった。