甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
色は一色なのに、模様が浮き上がってみえる、不思議な織り方がしてある
その布をフィーネは見たことがあった。
生まれ故郷よりさらに北の山間の村で作られていた布。
「あら、この布......」
「綺麗だろ」
そう言って、少年はにっこりと笑った。
痩せて貧弱な身なりの少年だが、笑顔がかわいらしい、まだ十歳にも
なっていないだろうか。
「値段もそんなに高くないんだ、これが50デラで、大きいのが_」
「よう、アルン 誰の許可をもらって布を売ってるんだ」
少年は熱心に品物の説明をはじめたが、突然男の低い声がそれを遮り、
顔を上げた少年が、怯えた目でフィーネの後ろを見た。
フィーネの後ろには、目付きの鋭い男が二人立っていて、ひどく
冷たい目で少年を見下ろしている。
フィーネがいるにも関わらず、前に進みでた男の一人が、布の袋を一つ取り
あげると、ひらひらと少年の前にかざしながら、もう一度強い口調で
少年を問い詰めた。
「誰の許可をもらった? って聞いてるんだ!」
唇を引き結び、下を向いた少年は答えない。
「そうか、じゃあ、どれだけ売れたんだ?売あげた金、全部出しな」
「嫌だ」
引き結んだ口の端から呻くようにそう言った少年は、自分の横に置いて
いたブリキの箱を抱えこんだ。
「てめえ!」
頑なな少年の態度に、男は足を振り上げると少年の肩をおもいきり蹴飛ばし
少年の小さな身体がすっ飛ぶ。
「やめて!」
フィーネは驚き、叫び声をあげた。