甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
クリスティーナの尖った声に、フィーネは顔をしかめたが、逃げ出す機会は
なさそうだった。
相手の顔を確かめようなんて思わなきゃよかった、でも、今更後悔しても
遅いわね......。
フィーネはあきらめると、クリスティーナの見えるところまで進んだが、
フィーネの姿をみとめたクリスティーナは、一瞬、呆気にとられた顔を
し、そしてすぐに意地の悪い顔になる。
「フィーネ、あなたそんなところで何をやっているの?」
「クララがいなくなって、探しているんです」
「へぇ? そう?」
「夜会のことを気にしてたから、こちらに来ているのではないか
と思って」
「ふーん」
そう言って、クリスティーナは、さらに意地悪く顔を歪ませる。
「私はまた、夜会に出たくても出れないから、未練たらしく
こそこそ眺めているのかと思ったわ」
「そんなこと!」
バカにした言葉に、さっと頭に血が上ったフィーネが言い返そうとした時
クリスティーナの後ろから声がした。
「まあ、まあ、ところでこちらは、どなたかな」
今まで黙って成り行きを見ていたクリスティーナの逢引の相手が、
穏やかな声でそう言いフィーネを見て、そしてなだめるように
クリスティーナの肩に手を置き、覗き込むようにクリスティーナの方
も見る。
「妹の家庭教師よ、元男爵令嬢の」
男爵令嬢だったということまで、わざわざこの男性にいう必要はないのに
クリスティーナはそう説明した。
吐き捨てるように紹介された身分と、わざわざ付け加えられた言葉に
フィーネの頬が怒りと羞恥でカッと熱くなる。
クリスティーナがそう言ったのは、フィーネに意地悪をしたいからで、
それはいつもの意地悪と一緒なのに、フィーネは自分の身分と過去を
目の前の男性に知られたことが、たまらなく恥ずかしかった。
「もと、ってどういうこと?」
「詳しくは知らないわ、身寄りがないから家に置いてあげてるの
妹の家庭教師としてね」