甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
バーバラから与えられた仕事は、厨房の下働きだった。
この娼館の台所はドゥーラという年老いた料理女が切り盛りしている。
フィーネが”厨房で働くことになりました”と告げても、ドゥーラは何も
言わない。
無口なドゥーラにじろりと大きな目を向けられれば、フィーネはここに
いてはいけないような気持ちになったが、ドゥーラは黙ったまま、
擦り切れた大きなエプロンを、フィーネの方へ放ってよこした。
そして、泥がついたままの人参が盛ってある籠を指さす。
洗ってこいということだろうか。
「これ洗ってきますね......?」
そう言いながらフィーネが籠を持ち上げると、ドゥーラはこくんと
頷いた。
人参の次は泥だらけのじゃがいも。
よいしょと持ち上げて、中庭の井戸から厨房に戻れば今度は汚れた皿や
カップで埋まった洗い場を指差されて。
昼食は立ったまま、仕事の合間にとり、目の前の仕事を黙々とこなして
いるうちに、気がつけばもう日が傾く時刻になっていた。
酒場の客に出すグラスを何十個と磨き終え、ふーっと息を吐いたフィーネの
前に、ことっと暖かい湯気の立つ皿とパンがおかれる。
「夕飯だよ」
今日初めて聞いた、ドゥーラの言葉だった。
「ありがとうございます」
娼館の夜は早い。
夜は営業が始まるからだ。
エプロンをはずしたドゥーラを見て、フィーネはドゥーラの仕事がここまでで
夜はフリッツという名のコックくずれの男が、バーテンダーも兼ねて
厨房に入るのだということを思い出した。
とうことは、フィーネの仕事もここまでだろう。