甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
クリスティーナの言葉に、男性は ”ふーん”と頷いただけだ。
そんな男性の方に向き直ったクリスティーナは、フィーネのことは
もう無視だと言わんばかりに、甘えた声をだした。
「ねぇ、もう中へ戻りましょうよ、ブランドン伯爵」
「ブランドン.....」
思わずフィーネは、聞こえてきた名前を呟いていた。
クリスティーナに押されるように背中を向けかけていた
ブランドン伯爵が振り返る。
「そう、ブランドンが僕の名だけど?」
「そうなのですね、いえ、知っている方に少し似ているような
気がしたので」
「似ている?」
「ええ、グリアム=フィリオ男爵という方です」
フィーネがそう答えた時、かすかにブランドン伯爵が息をのんだ
ような気がした。
怪訝に思って見上げた先には、フィーネを見下ろす無表情な顔がある。
「あの......」
おずおずとフィーネが口をひらいた時、クリスティーナの怒った声がした。
「もう、いい加減にして! フィーネ あなたさっさとクララを探しに
いきなさいよ!」
そう言って、フィーネを睨みつけたクリスティーナは、ブランドン伯爵
の腕を強引にひっぱって、室内に入ると、フィーネに見せつけるように
ピシャリ!とテラスへ続く戸を閉めた。
それから程なくして、フィーネはオーケストラの席の後ろにかくれている
クララを見つけだし、部屋に連れ帰ることに成功した。
こうして口うるさいボルドール伯爵に見咎められることもなく、
伯爵邸の夜会でのひと騒動は幕を閉じた。