甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 
(6) 助手をやらせていただきます

 かりかりとペンが紙の上をすべる音だけがする。

 時には早く、時にはゆっくりなりながらも、途切れることなく続いて
 いた音が、ぴたっと止まったのは、ユアンが、ふと手を止めたからだ。

 羽ペンを宙に浮かせたまま、ユアンは考える。

 メイシアの女神が生んだ双子はフィタとフォタだが、どっちが男でどっちが
 女だったか?

 ジャブロウぐらいの町をその身のうちに何十と抱えるここエイヴォン王国
 は、数多くの神話が残る歴史ある国だが、ユアンは今、そんな神話の一つ
 をもとにしたお芝居を書いている。

 しばらく考え込んでいたユアンは、羽ペンを放り投げると、ため息を
 つきながら立ち上がり、本棚までいき資料になる本を探し始めた。

 面倒くさいが、きちんと調べて書かないと、話のつじつまが合わなくなる
 ことがある。

 しかし、資料となる本を探していたユアンは、誰かが部屋のドアをノックした
 音で、手を止め振り返った。

 「セオ!」


 開いたままのドアに寄りかかるように立ち、ユアンに笑いかけているのは
 セオだった。

 濃いブラウンの髪を一つに結び、長身の身体を傾けながら片手を上げた
 セオは部屋の中に入ってくると、デスクの前におかれたソファにどかっと
 腰をおろした。


   「とりあえず必要な情報が手に入ったんでね、いったん戻ってきた」


 セオはユアンの詐欺の仲間だ。

 実際に相手をだますのはユアンだが、それ以前の情報収集や、身分を偽るため
 の準備はセオがやる。

 ユアンにとっては、かかせない大切な仲間。


   「そうか、で、例のものはどこに?」

   「やっぱりお前の見立て通り、あれはエインズワース子爵のところにある
    子爵はもう片足を棺桶に突っ込んだような老ぼれだ。
    前妻との間には子供はなく、遅くにもらった後妻との間に二人の子供
    がいる。
    十九才と十四才。
    まだ十四才の息子は寄宿学校に入ってて、十九才の娘は母親と父親の
    面倒をみながら暮らしてる。」


 セオの報告を聞き終えたユアンは、ふむと頷くとにやりと笑った。
   


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