甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 
 
 夜会のあった次の日というものは、貴族は大抵昼過ぎまでは起きてこない。

 夜中まで食べたり飲んだり踊ったりするのだから、朝、起きれなくて
 あたりまえで、よって、ボルドール邸も、起きているのは使用人とクララだけだった。

 邸が静かなうちにクララの授業をさっさとすませたフィーネは、ボルドール
 伯爵が起きてくる前に羽を伸ばそうと、庭の四阿で本を広げていた。

 

 夏の盛りだが、今日は風があるせいか暑さもそれほど気にならない。

 四阿のポールに絡みつくように茂っている葉がさわさわと揺れ、そばにある
 池でポチャンと音がするのは、蛙が水浴びを楽しんでいるのだろう。

 ゆったりとした時間を味わいながらページをめくっていたフィーネは
 すっと側に人影が立ったことに気づいて顔をあげた。

 夏の太陽を背に立つその人の顔はわからないが、トップハットと手に持つ
 ステッキが、その人が貴族の男性だと知らせてくれる。


   
   「こんにちは、お嬢さん」



 そう言いながら四阿の中に入ってきた男性は、フィーネににっこりと
 笑いかけた。


   
   「ブランドン伯爵......」


 
 フィーネに微笑みかける姿も優雅なその人は、昨夜逢ったブランドン
 伯爵だった。


   
   「お邪魔ですか?」

   「いえ、そんなことは......でも、クリスティーナならまだ、その......
    休んでいると思います」



 そう言って立ち上がろうとしたフィーネの肩を軽く押さえたブランドン伯爵は
 ”そのままで” というとフィーネの隣に座り込んだ。

 そして帽子をとり軽く足を組むと、その上に組んだ手をのせ、じっと
 フィーネを見る。

 一体何をしにここに現れたのかしら? 昨夜は遅くまでいたようだったけど。

 でも、風がぬけていく四阿の中で、黒髪をさらりと揺らすその姿に
 昨晩の疲れは見えない。

 

 
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