甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 トントンとノックすると、どうぞとユアンの声がして、フィーネはユアンの
 顔をまともに見ないように部屋の中に入り、ユアンが座っているデスクの前
 まで歩く。


   「あの、お話があるって聞いて、来ました」


 自然と言葉がへり下ったものになる。

 しかし、ユアンはそんなフィーネの気持ちなど与り知らぬとでもいうように
 フィーネをほうを見ようともせず、ペンを走らせるのも止めぬまま、口を
 ひらいた。


   「しばらくは、娼館のほうへ行かないでくれ」

   「でも、」

   「僕としても、これ以上バーバラと揉めたくないんでね」

   「じゃあ、私は働けないんでしょうか」

   「働く必要はない」

   「それじゃあ、困るんです」


 そう言ったフィーネにユアンはやっと書くのをやめ、顔をおこすと
 苛立った瞳を向けた。


   「何度言えばわかるんだ、君は頑固だな!」

   「働かなきゃ、私、泥棒になってしまうわ」

   「は?」

   「お金、前借りしたんです」


 ユアンは、ふんと軽蔑したように鼻を鳴らし、きつく目を閉じる。


   「じゃあ、さっさとバーバラに金を返せ」

   「できません」

   「なに!」

   「できません、もう使っちゃったんですもの」


 今度は大きく目を見開きユアンはありえないといった顔で、フィーネを
 見た。
 
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