甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

 数時間後、大きな鏡の前に立たされたフィーネは、目の前の鏡
 の中の姿を見て、ただ瞬きをくりかえした。

 鏡にうつっているのは、ブラウンの混じる金髪を結い上げ、上品な
 ドレスに身を包んだレディだ。

 でも、鏡の前に立っているのは自分.....のはず。

 フィーネはあまりにも変わってしまった自分の姿に声もでない。

 いつも首の後ろで一纏めのおだんごにしているブラウンの髪は金髪になり
 レディらしく襟足もあらわに、高く結い上げられている。

 薔薇の香油でしっとりとさせた肌は、つややかに輝いているし、うすく紅が
 ひかれた唇は美しい。

 そして、きちんとコルセットをはめ、クリノリンで膨らませたドレスは
 優美な曲線を描いてフィーネの身体をつつみ、ドレスを飾るレースやリボン
 が、フィーネをますます貴婦人らしくみせている。


   「私の手にかかれば、これぐらいなんてことはないさ」


 鏡の後ろで、ふんっと鼻を鳴らしながらそうバーバラが言うのを聞きながら
 鏡の隅にうつった影に、フィーネはどきっとした。

 鏡にうつったのは、部屋に入ってきたユアンだ。

 着飾った姿をユアンに見られることが、なんだか恥ずかしくて、
 こそばゆく、必要以上に身体に力が入ってしまい、フィーネは俯いた。


   「やあ、うまく仕上がったね」


 そう言いながら上機嫌な顔で近づいてきたユアンはフィーネの周りを
 歩きながらじろじろとフィーネを眺めまわす。


   「合格だ、バーバラ、感謝するよ」


 フィーネと二人のときは不機嫌な顔だったバーバラも、ユアンの言葉に
 やっと表情を緩めると、


   「お礼はいいよ、今回はこっちも助けてもらう側なんだし」


 と言いながら、フィーネに近づいた。

 そして、ほつれた髪をなおすふりをしながらフィーネの耳許で声をひそめる。


   「ユアンの足を引っ張るようなことをしたら、ただじゃおかないからね」


 脅すような言葉を凄みのある低い声で言うと、バーバラは部屋をでていった。
 
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